2020.12.18「読んだ本と雑感」

何もかもが最悪でウケているので、逃避のために読んだ本の感想を書く。

須賀敦子ユルスナールの靴』
最初に読んだ須賀敦子の本。ユルスナールのことも須賀敦子のことも全く知らない状態だったが、自分の過去と異国の作家の人生を交互に書く構成に引き込まれた。
ユルスナールに惹きつけられた理由に「ユルスナール」という名前の響きを挙げているところで、この作者の感性に惹かれた。一人の作家の足跡を追う形で書かれているのも、すぐに一人の人間に取り憑かれたように行動してしまう自分は共感を覚えた。

須賀敦子全集 第4巻
須賀敦子が幼少期から学生時代までに出会った本についての文章、書評の連載などが集められている。読書の感覚が克明に言語化されていて、遠く偉大な人の文章なのにすごく近く感じられた。たぶん須賀敦子に惹かれる人には、その文章の美しさと親密さを愛している人が多いのだと思う。

アントニオ・タブッキ『インド夜想曲
須賀敦子が翻訳したタブッキの中編小説。インドの情景が幻想的に描かれていて、またその構造も面白い。非常に演劇的だとも感じた。夜のバス停での少年との会話のシーンが怪しくて美しかった。

アントニオ・タブッキ『島とクジラと女をめぐる断片』
これも須賀敦子の翻訳。短編集といえばいいのか、まさに断片を集めたような本。アゾレスではなく「アソーレス」諸島と訳したのは、現地の発音に近く、また響きが良いから、という理由なのが良い。最後の短篇「ピム島の女」が素晴らしかったし、これもやはり演劇的だと感じた。

・イヴ・コア『クジラの世界』
前述のタブッキの断片集の流れで、また須賀敦子全集第4巻の書評にあったので読んだ。クジラの生物学的な内容というよりは、ヨーロッパにおける捕鯨の歴史が主に述べられている。バスクの人々が捕鯨を中心とした文化を持っていたことに興味を持った。バスク語で書かれた現代文学を読んでみたい。

須賀敦子『コルシア書店の仲間たち』
須賀敦子のイタリア生活について詳しく触れた作品を読んだのはこれが初めてだった。知らないはずの、そして今はもういない異国の人々について、これほど愛おしく感じられることに驚いた。共同体を夢見て集い、そして離れていった人々の物語にとにかく弱い。なぜなら人生は全てそういうものだから。孤独を知ったところから人生は始まるという言葉の強さ。

アントニオ・タブッキ『供述によるとペレイラは…』
タイトルが既に「構造」をやっている作品。私は「構造」が好きなので興奮するけれど、やはりこの作者の本質は別のところにあるというのを強く感じた。この時代のポルトガルの情勢のことをほとんど知らなかったことを知った。無知の知

・フェルディナンド・ペソア『不穏の書、断章』
これは全然読んでいないので積読本。タブッキの作品内にたびたび現れるポルトガルの詩人で、実在しない異国の詩人の名前を何人も生み出しては作品を発表している。絶対に面白い人間に決まっているので楽しみ。写真を見た瞬間「これは好きだよな」と思った。みんなも好きだと思う。

マルグリット・ユルスナール『東方奇譚』
ユルスナールの短編集。おそらくヨーロッパから見た「オリエント世界」を舞台とした短編が集められている。どれも怪しく幻想的で美しい。源氏物語のその後を描いた短編もある。ただ源氏物語の設定と食い違う部分が多いようで、そこだけ訳者の註がめちゃくちゃ雄弁になっているのがちょっと面白い。

マルグリット・ユルスナール『なにが? 永遠が』
ユルスナールを読もうと思い立って買った本。ただ3部作の3作目なので、おそらく最初に買うべき本ではない。
ユルスナールを知る以前からこの本は知っていて、たしか数年前に本屋に並んでいる時に目に留まったんだと思う。タイトルに惹かれて手を伸ばし、内容の難解さを理由に棚に戻した覚えがある。それでもこのタイトルが頭から離れず、今ようやくこの作品がユルスナールの作品であることを知った。
ユルスナールの家族の歴史が延々と綴られていて、読みながら正直頭に入ってこない瞬間もあるが、今は文字を目で追うことすらも安らぎとなっている。

この短期間でこれだけ本を読んでいることに自分でもちょっと驚いているが、これも須賀敦子というとっかかりがなければ出来なかった。

私は結局一人の人間を深追いするような人生しか歩めず、その執着を捨てる方法がいまだに分からない。自分の人生というものは結局どこにもなくて、どれも人への憧れのみで形作られていると思う。
そうした他者への憧れと関心が複数集まって自分になっているので、その柱が次々に折られていった今月は本当に疲弊した。柱は複数持てと言うが、その全てがなぎ倒されて更地になった場合はどうすればいい? 悲しみが癒えるのを待つことしかできないので、今はただ本の上の文字を追い続けている。

最近夢を見るたびに自分が何に執着しているのかがわかって自己嫌悪に陥る。夢を見ない方法を教えてほしい。良い夢も悪い夢も見たくない、深い眠りだけが欲しい。