2022.2.6「ハイウェイに乗る前に」

 

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最近一日に2話くらいみるスピードで新選組!を見続けていたが、だんだん後半に近づくのが恐ろしく、視聴速度が落ちてきた。
ずっと同じ作品の同じことを考えているので日記もほとんど同じことしか書いていない可能性があります。

土方歳三が京都に来てから近藤勇に対して「頭になってもらう」ように動いていることについてずっと考えている。
近藤勇はただ筋の通らないことが嫌いで、自分が嫌なことはやらない、こうしたいという意思は強いものの、そのためにどのような手立てが必要かという策を練るタイプではない。どちらかというと言葉が少ない印象がある。
一方で土方歳三は浪士組に入った頃から積極的に動くようになっていて、近藤勇に対しても「近藤さんは動くな」という指示を出していることが多い。
このあたりで確実に土方の意識が変化していて、「近藤勇はトップに立ち、自分はそのために動く」という覚悟を決めたというのが伝わってくる。

三谷幸喜はこの「覚悟を決めた」人間を描くのがめちゃくちゃ上手いなと思っていて、今やってる鎌倉殿だと北条政子の行動の変化がそれだと思う。
自分の役割(「天命」と言うこともある)を自覚した瞬間に何かのスイッチが入ったようにその役割を全ての行動の基盤にしていく人たち……。
それが全く不自然ではなく、「ああ今この人は「入った」んだな」というのを台詞と気迫によって理解させられるのがすごい。

新選組!」における土方って「天才の隣に立つ人間」であることを自覚しているというか、そういう立場に自らなろうとしているように見える。
近藤自身が強い求心力を持った人間であることは前提の上で、土方がいなければ近藤もそれに"なる"ことはなかったんじゃないか。
トップに立つということを周りの人たちによって理解させられていっているように見える。

でも土方だって、近藤が武士になって試衛館に行って…という道を歩んでいなければ、ずっと薬屋をやっていたのかもしれない。互いが互いの手を引っ張って戻れない道に進んでいる。

私は新選組!第2話のラストシーンが本当に好きで、ちょっとあのシーンに囚われているところがある。
近藤は出稽古で、土方は薬屋の行商で、それぞれ別の用事で出ていたところを偶然合流し、偶然出くわした村の騒ぎを解決して、またそれぞれの目的のために別れていく。この時二人はまだ同じ道を共にしてはおらず、この先そんな未来が待っているということも想像していない。
この別れ際、近藤が「うちの道場にこないか。一緒になんかでかいことやろうぜ」と叫び、土方が「考えとく」と答えて、二人は別の道へと歩き出すんですけど………私はこの場面がめちゃくちゃ好きで………。

この時の近藤も土方も、「何かやってやりたい」とは言っているけど、何ができるのかはわかっていない。
近藤はやってやる! という表情で勇ましく歩いていくけど、多分この場面の二人の感覚は乖離している。近藤が漠然と見据えている未来が土方には見えておらず、自分は薬屋として一生を終えるのだろうと半ば諦めているように見える。
その上での「考えとく」という返事なのだろうなというのが伝わってきて、だからこの時点では(少なくとも土方は)二人が運命を共にすることになるとは気が付いていなくて、それがとても良い。

この場面の「なんかでかいことやろうぜ」という近藤のセリフを聴くたびに、私はくるりの「ハイウェイ」を思い出す。

「何かでっかいことしてやろう きっとでっかいことしてやろう」と歌っているこの歌の主人公には、結局旅に出る理由なんてなくて、ただ何かをやりたいという衝動のまま車を走らせている。
たぶん主人公はこの時点で何かでかいことをするわけではないし、どうすればいいかもわかっていないので、そういう夢を話しているだけで時間は過ぎていく。

私はこれを聴くたびに「全ての人たち、ずっとくるりのハイウェイであってくれ」と思う。未来の計画を語るだけで過ぎていく時間が永遠であってほしい。
もちろん現実においてそんな時間は一瞬で過ぎ去り、すぐにでかいことをやったり、でかいことをやらなかったり、でかいかどうかはわからない何かをやるようになる。
そのどれになっても私は絶対に、「何もせずにやりたいことを語っていた時間」の方を一番愛おしいと思ってしまう。多分これはもうずっとそう。

このあと近藤は試衛館道場の主となり、道場には少しずつ仲間が増え、浪士組に入ることを決め、その時点でもう後戻りはできない。近藤は「でかいことをする」ようになって、土方はそれを支える場所にいることを決意する。
その全てが一様に美しいけれど、それぞれの役割が決まってしまう前の、まだ何者にもなることができない二人の「でかいことやろうぜ」という会話が、私にとっては一番愛おしい。

 


あとこれはずっと言ってるんですけど「あんたは使い分けができないから」と言って自らを昔の愛称で呼ばないよう近藤に言っておきながら、自分は気を抜いた瞬間にぜんぜん「かっちゃん」って呼んでるのめちゃくちゃひどい話じゃないですか? 近藤は怒った方がいいよ。いや、いいんですけど……っていうかこの話を3日で10回くらいしてるんですけど……